公開研究室 ふ、と

Research Statement

気づいたら、そこに問いがある

ふと、という瞬間

いつもの道を歩いていたら、何度も通っていたはずの家が、その日だけ急に気になった。本を読んでいて、一つの言葉が、まったく別の出来事を思い出させた。料理をしているときに、「あれを足したらおいしくなるかもしれない」と、ふと思いついた。そんな経験はないでしょうか。

世界は昨日と変わっていないのに、世界と自分との関わり方が少し変わる。それまで見えていなかったものが見えたり、つながっていなかったものがつながったりする。

日本語には、そのような瞬間を表す「ふと」という言葉があります。ふと気づく、ふと思い出す、ふと立ち止まる、ふと気になる。

そこには、まだ問いも、答えもありません。けれど、その小さな変化は、新しい問いが育ち始める入口なのではないでしょうか。

問いが生まれる手前

学術研究では、どのような問いを立てるかが、その後の研究を大きく左右します。ビジネスでは、不確実な状況のなかで、答えを急ぐことよりも、「いま本当に向き合うべき問いは何か」を問い直すことが、新しい価値につながる場面があります。また、デザインの分野では、最初から解決すべき問題を決めるのではなく、探索を通して問いそのものを見出していく実践が大切にされています。分野は違っても、「問い」は、新しい理解や創造の出発点として大切にされています。

けれど私が関心を寄せているのは、その問いが生まれる瞬間です。問いは、どのように立ち上がるのでしょうか。その始まりには、「ふと」と呼ばれる瞬間があるのではないか。この研究は、その仮説から始まりました。

問いの生態系

問いは、一人の頭の中だけで生まれるものではないと思っています。身体の感覚、暮らしのなかでの出来事、誰かとの対話、風景や場所、道具や技術、文化や歴史など、それらが有機的に結びつき、「ふと」が生まれ、違和感となり、問いへと育ち、また新しい実践へとつながっていきます。問いは、一つの出来事ではなく、さまざまな関係のなかで育っていくものなのかもしれません。私は、このような問いのあり方を、「問いの生態系」と呼んでいます。

問いをひらく場所

公開研究室「ふ、と」は、大学や研究機関の外で行う、小さな研究実践の場です。

この研究が観察するのは、いつもの風景がその日だけ気になったり、何気ない言葉から別の記憶がよみがえったり、理由はわからないけれど立ち止まりたくなったりする、「ふと」という瞬間です。そうした小さな変化から、問いがどのように生まれ、育っていくのかを探ります。

そのために、その瞬間を観察し、記録し、対話し、つくり、試し、また観察する。その往復から見えてきたことを「研究断面」やさまざまな実践として残していきます。

ここでいう「公開」とは、完成した成果を発表することだけではありません。何かに気づき、まだ言葉にならない違和感を抱え、問いをつくり直していく。その途中にある観察や記録、対話、試作も、できる範囲でひらいていくことを意味しています。

ここに残された記録に誰かが出会い、自分の経験と重ねたり、別の問いを持ち帰ったりする。そして、一人のなかに生まれた問いが、別の誰かの思考へとつながっていく。そのような接点をつくることも、この研究の一部です。

大学や研究機関への所属、肩書き、専門分野にかかわらず、日常のなかに生まれた違和感や問いを、すぐに手放さず考え続けたい人に、この研究室をひらいています。

答えを提示することだけではなく、問いが立ち現れ、変化し、次の問いへつながっていく過程を残すこと。ここに残す記録が、まだ言葉にならない気づきや違和感を、なかったことにせず、その先を考え続けるための小さな燈になるように、公開研究室「ふ、と」をひらいていきます。